sandabe’s diary

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競輪競走不成立の原因と損得勘定

8月15日、福島県・いわき平競輪で開催された第60回オールスター競輪の第6R S級特選競走が審判事故により不成立となるという珍事があり、当該レースの車券発売金額2億2130万2400円が全返還され話題となっています。

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写真:いわき平競輪場HPよりhttp://www.tairakeirin.com/

 

周回板とは

競輪競走では、競走中の選手に残り周回を知らせる周回通告員として、周回員と打鐘員の2人がいます。

周回告知板(以下周回板)とは、競走周回ごとの毎周残余の周回数を表示して選手へ告知するための数字が書かれた板のことですが、1枚めくるごとに1ずつ少ない数字が表示されるように金具で連結され、絶対に表示違いが起こらない仕組みになっています。

これを最後尾選手がホームストレッチラインを通過するたびに周回員が1枚ずつめくることで残余周回数を表示します。

打鐘員は先頭の選手が最終周回前回のバックストレッチラインに到達したとき (残り1周半)から、先頭の選手が最終周回始めのホームストレッチラインに到達するまでの間打鐘により周回数が残り1周であることを通告します。
この周回板と打鐘のいずれを間違って通告してしまっても、その競走は不成立となってしまうという、恐ろしく責任の重い仕事です。
いざ打鐘しようとしたときに、鐘を打つハンマーが無いことに気づいた打鐘員が、履いていた革靴を脱いで靴のかかとで打鐘したという話は有名です。

自転車競走競技規則

第73条 次の各号のいずれかに該当する場合は競走不成立とする。
(3)
競走中周回通告員が打鐘若しくは周回通告を誤って行ったとき、又は打鐘若しくは周回通告を行わなかったとき。

 

周回板表示違いの原因は?

レース映像を見ると、残り1周半の打鐘後に選手がホームストレートを通過する残り1周の時点では、周回板は【1】を表示していなければなりませんが、映像では【2】(赤板:赤色の板に数字の2が書かれている)となっています。


『前の周回で落車した選手を走路から退避させるため走路補助員らが混乱し』たことを原因とする報道も一部ありますが、前述のように非常に重要な役目を持つ周回通告員が周回板・鐘の近くから離れることはなく、ホームストレッチライン付近での大量落車など、競走継続に多大な支障を及ぼすなどの非常事態以外では選手の救護は行いません。
問題のレースでも、残り1周の時点で周回員は周回板のすぐ近くに居るので、この可能性は低いでしょう。

本来ならば、周回員は残り2周のホームストレッチラインを最後尾の選手が通過したのを確認後、周回板を【1】として「打鐘」を発声し打鐘員と相互に確認を行います。
なので、例え周回員が操作を忘れたとしても打鐘員が気づくでしょうし、周回通告員をはじめすべての執務員は審判長・決勝審判員と常にインカムで連絡を取り合っているので、もし周回板の表示違いがあれば直ちに正す指示がなされるはずです。


周回員が操作を忘れるだけでは起こりえない表示違いが起こったということは、
 ①故障で周回板を正しく操作できなかった
 ②周回員・打鐘員だけでなく、審判員もが見逃してしまった
ことが考えられます。
しかし、競走不成立となった場合は打鐘員がただちに短い間隔の打鐘で競走の停止を通告すべきなのに、今回はホイッスルと場内放送で通告を行ったことを考えると、周回通告員(周回員と打鐘員)へのインカムによる指示が正常に行えなかった可能性もあります。

仮に周回員が操作を忘れちゃってたとしても、バックアップが正常に機能していればこんな事態は防げたはずなので、原因はやっぱ①なのでしょうか。

競輪界には万全の対策を

今回の競走不成立で迷惑を被ったのはファンであることは間違いなく、特に選手が不成立と分からずに競走を継続してゴールしちゃったために、幻となった勝ち車券を買っていたファンのお気持ちは 察するに余りありますが、紙屑となるはずの外れ車券が返還されたことで、金銭的には損はしなかったファンも多いでしょう。
車券発売金額2億2,130万2,400円全額返還がセンセーショナルに報じられていますが、施行者が実際に得るはずだった金額は控除率25%の55,325,600円です。

また不成立となったのが6Rだったこともあり、ファンが返還されたお金を以後のレースにつぎ込んでくれた可能性もあったので、そっくりそのまま全額が損失とはいえないでしょう。
しかしながら、ファンの信頼を損なったことは重大で、競輪界には同様の事故が二度と起こらないように、万全の対策をとることが求められます。

で、選手はどうなの?

では選手はどうなんでしょう。
選手には『日当』の他に、競輪競走の発走台に自転車を差し込んだ時点で『出場手当』がつきますが、ゴールした選手には着順に応じて『賞金』と『競走得点』が与えられます。
今回のように周回板の誤表示など運営側の原因によって競走不成立となった場合、選手には当該レースの1着から末着までの合計賞金を出走選手数で割った金額(通称ポン)が支払われます。

不成立では競走得点は当然与えられないので、持ち点よりも当該レース着順の競走得点が高かったという選手は損をしますが、その逆の選手は実にラッキーです。
また本来競走が成立したら失格となる筈だった選手は、ノーギャラでペナルティだけ貰って泣きながら帰るはずだったのに、ペナルティなしでポンがもらえるので丸儲け。
同じように、落車で途中棄権した選手は末着賞金の80%しかもらえないはずでしたが、ポンがもらえるのでウキウキです。
1着だった選手は賞金も競走得点もパーとなるのでご愁傷様ですが、後々までの語り種ができたのでヨシとしましょう!


また、選手の賞金は全競輪の売り上げを元に算出されるため、当該レースに出場した選手が直ちに損をするという話ではありません。

競輪は人が走るレース。
ギャンブルとしてでなくとも、バンクを疾走する姿は強烈な印象を与えてくれます。
一度、本場でご覧になってみてはいかがでしょうか。
入場料は100円です。

 

2017.8.17.追記

じゃ、電子化はどう?

「手動じゃなく、なぜ電動や電光掲示式にしないのか」という意見もあるようですが、そうすると機械的故障によるリスクが増えるため、原始的とも言えるいまの手法で行なっているのだと思います。

電子化したゆえの機械的故障といえば、スターターピストルや発走機の故障があります。

どちらも朝から入念に検査されてはいますが、号砲が鳴らなかったり、スターターピストルに連動する筈の発走機の後輪のロック装置が反応しないと、スタート出来ない事態に陥ります。

岸和田競輪で発走機が故障したときは、号砲と同時に踏み込んだものの誰一人スタートできず、事情が飲み込めない発走員が『早く出ろ』と目で合図したのには笑ってしまいました。

この時も再発走となりましたが、再発走になると次のレース開始までの時間が短くなり、それがたとえ数分でも車券発売額に大きな影響がでます。

そのため、できるだけリスクは避けたいというのが施行者の本音のようです。